2006年05月23日

なぜ K には ° が付かない?: 絶対温度の単位

勤めている大学のある方から「英文で『度シー』を出すにはどうしたらよいか」と訊かれて,Alt + 0176 を押してくださいとお答えしたら「それでは『度』しか出ないよ」と言われた。「欧文では degree sign と C は独立した字です」と説明して納得してもらったのだが,そのことから「一々面倒だから論文は絶対温度で書こう」という話に発展した。

確かに "°C" や "°F" であるのに,絶対温度の単位 K には "°" の記号が無い。実はこれは学生に説明するのになかなか難儀するのである。Wikipedia 日本語版ではその理由を「これら(摂氏温度や華氏温度:筆者註)の記号や表記は測定の尺度であり、ケルビンは測定の単位であることを表している。」としているが,これはわかり難いだろう。

定義を明確にしておく必要がある。尺度とは「観察される変数と数値を対応させる基準」のことである。物指しのことと思えば良い。尺度を用いた観察によつて数値が与えられるが,その数値のままでは意味が無い。用いた尺度に対応する単位を付けることが必要である。例えば A4 の紙の縦の長さは 297 mm である。これは明確に定義された長さである 1 mm の 297 倍の長さであるという意味であり,「297 mm」は 297 と mm の積であることを意味している。ただ漫然と数字と単位を組み合わせたのではない。従つて(A4 の紙の縦の長さ)/ mm = 297 という表記すら成立する。(更に言えば,mm の最初の m は 10-3 のことであり,「297 mm」は 297 × 10-3 × m の意味ということになる。)

おそらく Wikipedia が言いたいことは,"°" という記号の後に,摂氏温度および華氏温度という尺度を示すために C や F を付ける表記をしているのであり,K はそれ自体が温度の単位であって尺度を示しているのではないから "°" が要らないのだということであろう。しかし確かに C や F は尺度を示しているとは言えるであろうが,尺度そのものではない。また,"°C" や "°F" となれば立派な単位である。Wikipedia の記述は誤解を招くおそれがある。たまたま温度の場合は複数の尺度が共存していたので尺度を区別しやすいやうな記号にしたということである。

実は絶対温度についても "°K" が存在したのである。1967 年まではそう書かれ,度ケルビン degree kelvin と読まれていた。1968 年に「水の三重点の絶対温度の 273.16 分の 1 を 1 K とする」と決められた際に "°" が外れた。その当時は精密な温度測定が可能になつてきており,温度差 0.001 °K を対象とするようなことが現実化し,SI 接頭辞 m (milli), c (centi) 等を付けるときの事を考えて外されたという事である。少々つまならい話になったが,K に ° が付かないのは理念というより実用的な理由のためだったのである。

余談であるが,尺度は更に「比例尺度 ratio scale」と「間隔尺度 interval scale」に分かれる。明確に定義された零点を持っているものが比例尺度であり,零点が便宜的に定められているのが間隔尺度である。絶対温度は前者であり,摂氏温度や華氏温度は後者である。そういう意味では年号表記も間隔尺度になると言えよう。尤も右翼に言わせれば皇紀は比例尺度だということになるかもしれないが。

「度」 "°" というのは結構厄介なものである。次回はこのことを考えてみたい。
Posted by silverfox at 22:31│Comments(3)TrackBack(0)科学

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この記事へのコメント
お久しぶりです。
Alt + 0176 やってみましたが、出ません。半角英数字にしているのですが・・・
Posted by ゲスト at 2006年05月24日 13:35
Wilhelm 様

すみません。書くのを忘れていました。数字はキーパッド(いはゆるテンキー)入力してください。ノート型 PC の場合は、NumLock などを押すとキーパッド入力モードになります。
Posted by silverfox at 2006年05月24日 23:25
できました!ありがとうございました。
アルファベットキーの上の小さい数字の意味がはじめてわかりました。
Posted by ゲスト at 2006年05月25日 19:34